ER日記(1):60歳男性の不穏(意識障害)

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0160歳男性の不穏(意識障害)

昏睡状態に陥った患者、または不穏状態(暴れる状態)の患者が“ある薬”で全く元どおりになることがある。
それも注射をしてから1分も経たないうちに・・・。

突然、訳もなく暴れだした男性

ER(救急外来)のホットラインが鳴った。ERナース(ER看護師)が対応している。ホットラインを切ったERナースがERドクター(ER医師)たちに搬入患者について報告している。

「60歳の男性、主訴は不穏(暴れている状態)、自宅で急に暴れだし、奥さんでは手におえなくなったとのことです。お酒は飲んでいません。高血圧と糖尿病で近医にかかっているとのことです。搬入まで約8分」
その情報を聞いていた別のERナースが心配そうにリーダー医師にたずねてきた。
「先生、また精神科ですか?」
「違うだろう」
「どうして違うということがわかるのですか?」
「60歳の男性が急に精神病にはならないよ」
「あぁ、そうなのですかね」

そのERナースはリーダー医師がイメージしていることが全くわかっていなかった。ERドクターたちが、これから運び込まれる60歳の不穏の男性の診断について論議している。しかし、その論議は直ぐに終わった。その診断(予想)をくだすのに時間はあまりかからなかった。十中八九これであろうということで落ち着き、ERナースに、ある器具の用意を指示した。

病院へ来ても不穏は止まらない

しばらくして、救急車が到着した。かなり体格のいい男性が不穏状態で暴れている。奥さんも付いてきていたが小柄な奥さんではこの男性の大暴れは手におえないだろう。酒の臭いは一切しない。ERのストレッチャーに移してバイタルサインや点滴をとろうとしたが、すごい勢いで騒ぎ暴れている。その大声は半端ではなく、何人もが何事かと集まってきたほどであった。

奥さんに事情を聞くと、暴れだす前までは普段と変わりなかったのに、急に暴れだしたとのことである。精神科疾患の既往もなく、今までこんなことははじめてとのことである。結局この男性に点滴をとるため、本人を押さえつけるのに4~5人が必要であった。そして、点滴を入れる前にある血液検査をおこなった。

急におとなしくなった患者

その検査は約5秒で結果が出た。結果は予想どおりであった。そして、その直後に「ある薬」を注射した。それから約1分もしないうちにこの男性の不穏はおさまった。それまで4~5人で必死にこの男性を抑えていたが、不穏がおさまると同時に抑える方の力も必要でなくなった。

そして次の瞬間には男性は覚醒してきて、ふしぎな顔をしながら
「ここはどこですか、私はどうしてここにいるのですか。」としゃべり始めた。本人にしてみれば、あるところから気を失い、気が付くと目の前に何人もの医師や看護師がいるのだからびっくりするであろう。

不穏の原因は低血糖!

この男性に注射した「ある薬」とは、それは正確には薬ではない、ブドウ糖である。そう、この男性は低血糖で不穏状態になったのである。糖尿病の薬を飲んだり、インスリンを注射している患者の最も恐ろしい副作用は低血糖である。低血糖が長時間続くと死亡する危険さえある。低血糖の患者はERでは珍しくない。大部分が糖尿病の患者で薬やインスリン注射による副作用である。

糖尿病をもっていることや、その治療をしているという情報がERドクターに入ってくればいいのだが、本人は意識がなく話ができない、家族がそのことを知らない、だれも付き添いがいない、などで情報として入ってこない場合も珍しくない。

症状も、最も頻度が高い意識障害から始まり、不穏(不穏も意識障害の一種)、片麻痺、言語障害(呂律困難)、痙攣、失神などさまざまである。片麻痺や言語障害が主症状の場合は、脳卒中と全く同じ症状のため脳卒中と誤診される場合も少なくない。鑑別診断を知らなければ診断がつかず、遅れることもある。

現在では、ER(救急室)で血糖の簡易検査ができないことはないであろう。また、血ガスでも血糖検査ができる。血糖の簡易検査であれば通常5~10秒、血ガスでも1~2分あれば結果がでる。低血糖を疑いさえすればER(救急室)での血糖検査はできるはずである。しかし、現実的には、ERでの低血糖の診断は簡単なようで難しいのである。

意外に知られていない低血糖で起こる不穏や片麻痺・言語障害

低血糖で不穏になることを知らない医療従事者も少なくない。不穏も意識障害の一種であることを理解すれば、低血糖で不穏になることは容易に理解できるであろう。また、片麻痺や言語障害という脳の局所症状が低血糖により引き起こすことを知らない医療従事者も多い。

低血糖で脳の局所症状(片麻痺、言語障害)が起こる機序は、左右の大脳半球で血糖に対する閾値が違うためである。つまり、優位半球(言語中枢がある側)と劣位半球では血糖に対する閾値が違うため、同じ血糖値でも優位半球から症状が出やすくなる。そのため、一気に血糖が下がった場合は意識障害になるが、ある程度ゆっくり血糖が下がった場合は優位半球の症状が先に出現する。

日本人のほとんどが左に優位半球があるため、片麻痺は右側に出る場合が大部分である。また、意識障害も片麻痺もなく、わずかな言語障害のみ診られる場合に低血糖である場合もある。

いずれにしても上記のような症状を診た場合は必ず血糖検査を早急にすべきである。血糖検査は数分以内に結果出るので、低血糖の除外・診断はERですぐに可能である。今回は、不穏状態になった患者が「ブドウ糖」で劇的に改善して全く元どおりになった話をした。もし、一般の人がこの改善状況を目の当たりにすると非常に驚くであろう。すべての病気がこのようにうまくいけばいいのだが、なかなかそうはいかない。

【医学的まとめ】低血糖の症状

下記症状を確認すれば、低血糖除外のために、必ず血糖検査(簡易検査または血液ガス)を行うこと!
1、意識障害・不穏(不穏も意識障害の一種)
2、片麻痺(一般的には右片麻痺がほとんど)
3、言語障害(構語障害など)
4、痙攣
5、失神
6、ショック(血圧低下)

意識障害について1から学びたいという方はこちらで意識障害について医学的に説明していますので、是非ご覧ください。

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