ER日記(3):30歳女性の主訴不明

0330歳女性の主訴不明

医学的にどこが問題なのかはっきりしない親子が運び込まれた。母親は出産後にうつ状態になっているらしい。しかし検査を進めて行くうちにとんでもない事実が判明する。

何が問題なのかよくわからない親子が救急搬入

30歳の女性と0歳の子供が救急車で搬入された。その女性の母親も付き添いで一緒に来ていたが、家族待機場所に案内された。二人とも見るからに元気そうである。この二人が救急車で搬入された理由は次のとおりである。

30歳の女性が出産目的で里帰りをして数ヶ月前に無事出産した。今まで精神科的な病気はないが出産後うつ状態になっているらしい。その女性が生まれたばかりの子供を連れて、昨日から山の方へ出て行ったきり行方不明となった。しかし、今朝母子ともに見つけられ、無事実家に連れ戻された。外見上は母子ともに元気そうだが、その女性の母親が心配して119番をしたらしい。

救急隊員もその女性および子供が、医学的に問題があるかどうかわからないが、家族が希望するので病院へ運んだということである。確かに、それまで精神科的病気がないのに出産を契機にうつ状態になる人は10~20%もいるのでそれ自体は不思議なことではないが、この親子にどのような問題があるのだろうか。ERドクター(ER医師)たちも疑問であった。

咽の痛みを訴える患者

搬入後しばらくして、30歳女性を担当したERドクターがリーダー医師のところに困った顔をしながら相談にやって来た。

「現在、支離滅裂なことを言っているとは思えないし、一応言っていることは筋がとおっているのですよ。ただ、一番困ることは何かと聞くと、咽(のど)が痛いと言うのです。どうして咽が痛いのかと聞くと、昨日、山で木の枝を飲み込んだと言うのです。それも、10cmぐらいの木の枝を丸呑みしたと言うのです。信じられますか?」

「木の枝を飲み込んだ? 話振りからして、うつ状態のため訳のわからないことを言っているようではない訳だねぇ。しかし、なぜそんな物を飲み込んだのかね? 自殺目的かね?」
「そうでしょうね。本人もそう言っています。いくら自殺目的とは言え、木の枝なんか丸呑みできますかね?」ERドクターが疑問そうに質問した。

「ンー?」リーダー医師も首をかしげながら絶句した。二人の医師はお互いに顔を見合わせながら首をかしげている。精神科の患者の中には、全くしていないことをしたかのように言う人も珍しくない。

木の枝を飲み込んだうつ状態の女性

しばらくして、リーダー医師が口を開いた。
「患者がそう言うのだから信じるしかないよね。仕方がない、内視鏡をしよう。」
「そうですよね。それしかありませんよね。」
ERドクターが相槌をうった。患者および家族に内視鏡の承諾をとり、リーダー医師による内視鏡が始まった。

内視鏡のスコープが患者の口から咽頭(のど)の中に入る。気管と食道の分岐部の手前まで入った時、そこに傷が認められた。それを見た時、内視鏡をしているリーダー医師もそのモニターを見ているERドクターも一様に驚いた。さては、患者の言っていたことは本当かも? 内視鏡室にいるみんながそう思い始めた。スコープはそのまま食道に入っていった。するとどうだろう、確かに木の枝のような物が見えるではないか。

取り出された二本の枝

「何かある! 異物カンシを用意して!」リーダー医師のその言葉にERの内視鏡室に緊張感が走る。異物カンシでそれを取り出した。なんと、直径約5mm長さ約20cmの、筒状の木の枝が出てきた。おまけに、その筒状の木の枝にはクリスマスツリーのようにいくつもの小さい枝が付いている。

何ということか、その木の枝が口から出てきた時はERの内視鏡室にどよめきが起きた。医師も看護師もみんなの表情が変わった。次にリーダー医師は、この木の枝による食道損傷がないかを調べるために、再度スコープを食道内に入れた。幸い食道内には損傷はなかった。

そのままスコープは胃の中に入っていった。するとどうだろう、胃の中にも異物があるではないか。今度も木の枝ようである。ERの内視鏡室に再度緊張感が走る。これも異物カンシで取り出した。今度は直径約1cm、長さが約10cmの、筒状の木の枝である。今回は、前回以上のどよめきが起きた。二本も入っていたということとこんなに太い物が入っていたという二重の驚きのためである。一つならまだしも二つも出てくるとはだれが予想しただろうか。

その後、胃および十二指腸の損傷がないかを確かめるためにもう一度スコープは胃、十二指腸に入っていったが胃にも十二指腸にも損傷はなく、異物もなかった。ほんとに信じられないことであるが、こんなものが丸呑みできるのである。結局、患者は咽頭損傷のため耳鼻咽喉科に入院し、子供は問題なく帰宅となった。

出産後のストレス

この患者が、木の枝を飲み込むことで死ぬことができると思ったのか、どのようにして死ぬつもりであったのかは知る由もない。しかし、こんなことがありうるということには驚かされた。複雑化した現代社会の中で、出産後の育児は以前には考えられなかったような精神現象を母親に起こしていることは事実のようである。

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