死戦期呼吸とは

この記事は下記のような方におススメです。

  • 急に倒れた傷病者の意識・呼吸・循環を評価することに不安がある。
  • 救命処置の妥当性を検証しているニュースを観たことがある。
  • 教育機関やスポーツ施設に勤務している方で、学生や利用者が倒れた時に、主体的に救命処置を実施しなければならない立場にいる。

はじめに

皆さんは、体育の授業や部活動の最中に学生が心肺停止に陥ったニュースをご覧になったことはありますか。報道の中で「そのとき、救命処置はこうすべきだったのではないか」と検証する特集が組まれることは少なくありません。学校やスポーツ施設で心肺停止が起こったケースでは、現場がたとえ病院でなくとも、救助者が医療従事者でなくとも、“適切な救命処置ができていたか”と問われることはよくあることなのです。
急に倒れた傷病者の意識・呼吸・循環を評価することは、BLS(一次救命処置)の重要な手技だといえます。なぜなら、適切に評価できなければ、適切な行動にはつながらないからです。しかし、不慣れなうちは、特に呼吸の評価に迷いが生じることがあります。その理由は、一見、呼吸をしているように見える死戦期呼吸という呼吸パターンがあるからです。今回は、その死戦期呼吸に焦点を当てて解説していきます。

心肺蘇生法に対するBLSについては下記のページで解説していますので、そちらを参考にしてください。

【関連記事】BLS(一次救命処置)とは | BLSの手順とAHA(アメリカ心臓協会)公認のBLSコースについて解説

1. 死戦期呼吸とは

死戦期という用語は、死の直前という意味があります。死戦期呼吸が見られる傷病者は、文字通り、死がすぐそこまで迫っていると捉えてください。BLSプロバイダーマニュアルでは、死戦期呼吸に図1のような特徴があると示されています1)。視覚的には、下顎・頭部・頸部が不規則に動いているのを確認できます。呼吸と呼吸の間隔は不規則ですが、急速に息を吸い込んでいるように見えることもあります。鼻息・いびき・うめき声があるように聞こえることもあり、あえぎ呼吸とも呼ばれます。
予めこれらの特徴を把握していない救助者は、「呼吸をしているような“動き”があるから」「呼吸するときに何か“音”が聞こえるから」呼吸があると解釈してしまうケースが想定されます。死戦期呼吸は心停止の徴候であり、近い将来、必ず呼吸は止まってしまいます。これらの特徴を見かけたら、呼吸をしていないと判断すべきなのです。

死戦期呼吸の特徴
【図1】死戦期呼吸の特徴(文献1をもとに作成)

死戦期呼吸の特徴(図1)を冷静に見直すと、文字情報だけでは「特徴を見る限り、明らかに正常な呼吸ではない。なぜ呼吸しているように見間違えてしまうのだろう」と疑問に思われるかもしれません。しかし、救助者が懸命に呼吸の評価をしているときに、他の救助者が「無呼吸ではないのだから、呼吸しているだろう」と語気を強めて迫ってきたら、救助者たちの判断に影響はないでしょうか。もし、慣れない救助者ならば、その発言ひとつで評価結果が左右されてしまうかもしれません。判断が揺らぐ原因として、実際に心肺停止の傷病者を目にしたことがない場合は、文字だけの説明ではイメージが沸きにくいことが考えられます。百聞は一見に如かず、動画教材(アメリカ心臓協会BLSコースでのビデオ視聴、各種救命講習、動画サイト等)で視覚的に理解することを推奨します。YouTubeに死戦期呼吸について扱っている動画がありましたので、一度参考にしてみて下さい。

今回は、以上のように呼吸の評価に焦点を当てて説明していきます。BLSの手順については下記の記事をご覧ください。

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2. どんなときに「呼吸なし」と判断すればいいの?

死戦期呼吸を含めて、傷病者の呼吸がないと判断すべき状態を下記にまとめました。なお、市民救助者向けの講習では「呼吸が正常でなければ心肺停止を疑う」と教えられることがあります。しかし、その“正常”を常に把握しておくこと自体が難しいと感じられる方も少なくありません。

無呼吸
文字通り、全く呼吸がない状態です。救助者が口元と胸を観察して、口の動きと胸の上がりがなければ無呼吸です。呼吸なしと判断します。
死戦期呼吸
前項でご説明した通り、死戦期呼吸は呼吸なしと判断します。
呼吸の有無の判断に自信が持てないとき
無呼吸は比較的見極めやすいのですが、死戦期呼吸なのか、正常な呼吸なのか、微妙なラインで迷ってしまうことはよくあることです。死戦期呼吸の特徴がどの傷病者にも一律で同じように表れるわけではない点も、判断を難しくするポイントだと思います。ここで最も避けなければならないのは、判断に迷うことによって評価が先に進まず、立ち往生してしまうことです。結果的に、胸骨圧迫の開始が遅れ、救命率が下がってしまいます。どんなに判断が難しくても、5秒以上10秒未満で結論を出すことが重要です。オーバートリアージ(実際よりも重症と見積もること)になってしまうかもしれませんが、「呼吸なし」と判断して次の行動に進む方が現実的であると考えます。

なお、BLSアルゴリズムでは、呼吸と循環を同時に評価することになっています。慣れないうちは、呼吸→循環と1つずつ確実に評価したくなる気持ちはわかりますが、時間がかかります。呼吸は目視で、循環は触知で評価していますので、同時に実施できるのです。循環なしであれば、その時点で心肺停止と判断できます(循環がないのに、呼吸が正常であることは考えられないため)。もし、呼吸の判断に自信が持てないときでも、呼吸だけに固執する必要はありません。

迅速に呼吸を評価するためのポイント
アメリカ心臓協会(AHA)のBLSアルゴリズムにおいて、気道確保は必須ではなく、そのままの姿勢で目視による観察をします*。救助者が姿勢を変えたり、必要以上にじっくりと観察したりすることで、胸骨圧迫の開始が遅れてしまう恐れがあるからです。
*AHA以外のコースでは、傷病者の顔に耳を近づけて、見て・聞いて・感じて、判断するように指導するコースもあります。

死戦期呼吸(呼吸停止)と判断したら?

死戦期呼吸は心停止の徴候です。直ちにCPRを開始する必要があります。明らかに脈が触れる状態ならば、呼吸停止アルゴリズムに沿って対応する(100%酸素を投与しながら6秒に1回の人工呼吸を始める)ことも選択肢のひとつでしょう。しかし、循環の評価に自信を持てない場合は、評価に時間をかけずに「循環なし」と判断する必要がありますし、100%酸素を用いた人工呼吸の開始に遅れが生じれば、容易に低酸素による心肺停止に移行します。煩雑な現場ほど、予想外の悪化を考慮しながら行動すべきですので、死戦期呼吸とCPRは切っても切れない関係にあります。特に、学校では呼吸停止アルゴリズムに沿った対応ができませんので、死戦期呼吸と判断した場合に、直ちにCPRを開始することは理にかなっています。

3. 小学6年生が駅伝の練習中に心肺停止となった事例(2011年)

ここでは、心肺停止が疑わしかった傷病者に、心肺蘇生が実施されなかった事例をご紹介します。10年以上も前の出来事ですが、現在でも広く知られている事例です。
2011年9月、さいたま市の小学校6年生の桐田明日香さんが、駅伝の課外練習中に倒れ、緊急搬送された病院で亡くなるという事故がありました。明日香さんが倒れた当初、駆けつけた教職員たちは、明日香さんは心肺停止ではないと判断し、心肺蘇生とAEDの装着を実施しませんでした。しかし、救急車到着後(約11分後)に救急隊が再評価すると、心肺停止に陥っており、心肺蘇生が開始されました。学校で倒れた直後の救命処置が適切であったのか、繰り返し検証がなされました。
この事故をきっかけにさいたま市とご遺族が協力して、「体育活動時等における事故対応テキスト~ASUKAモデル~」を作成されました。体育活動時等に特化した教員研修のためのテキストです。体育活動時等における重大事故を未然に防ぐための取り組みや、事故発生後にとるべき対応について具体的に示されています2)。

4. 学校で学生や職員が急に倒れたときに、どう動けばよいのか

もちろん、医療現場でも死戦期呼吸の見極めは求められます。しかし、予想外の緊急事態に対応しなければならないという点で、今回は学校での事例を取り上げました。過去を振り返って当事者の救急対応の良し悪しを議論するのではなく、“それだけ呼吸を見分けるのは難しい”ということを強調したいです。突然の出来事に少人数で対応するには、時間もマンパワーも不足し、非常な困難な環境で活動することになります。不慣れであればなおさらです。しかし、私は、正常な状態を知っているからこそ、異常の早期発見ができる場合もあると考えます。救助者になりうる職員の皆さんが、学校生活で学生や同僚の普段の様子を知っていることは強みです。ただ、それでも迷いは生じます。トレーニングによって明確に死戦期呼吸のイメージが沸くようになれば、判断のスピードも正確性も格段に向上します。

では、ここからは実際にどう動けばよいのかご説明いたします。傷病者が倒れたときの様子がどうであっても(バタンと倒れる、誰かにもたれかかるように倒れる、座り込むように倒れる等)、意識がなければすぐに119番通報とAEDを依頼しましょう。「とりあえず経過を見よう」という選択肢は推奨できません。本当に救急車を呼ぶべきなのか時間をかけてじっくりと検討したい気持ちもよくわかりますが、意識消失=ただならぬことが起こっています。救急車の到着まで全国平均で約9分かかります。また、慌てやすい第一発見者ほど、周囲に人がいたとしても、電話連絡やAEDの準備をすべて自身で行おうとする傾向にあります。“急変時は傷病者のそばを離れない”のが原則ですので、通報等は周囲の職員に協力を依頼しましょう。後から駆けつけた職員が役割を分担したり、何が起こったのか現状把握に努めたりすることで、第一発見者が落ち着きを取り戻すことにもつながります。
次に、呼吸・循環を同時に評価します。文部科学省が発行している学校の危機管理マニュアル作成の手引では、応急手当を実施する際の留意点として、死戦期呼吸を見分ける重要性を強調して述べています4)。呼吸があるかどうか微妙なラインのときには判断に迷いますが、前述の通り、10秒経過する前に「呼吸なし」と判断して次の行動に進むのが望ましいと考えます。「循環なし」であればなおさら「呼吸なし」であることが立証されます。その時点で心肺停止と判断して、胸骨圧迫とAEDの装着を開始しましょう。じっくり観察を続けても、時間をかけるほど精度が上昇するとは考えられません。胸骨圧迫までの時間が遅れれば遅れるほど、救命率は下がります。
先ほどご紹介した事例では、倒れた当初は呼吸あり・循環ありと判断しうる状態であったようですが、状態は刻々と変化します。たとえその段階では心肺停止ではないと判断しても、救急車の到着を待つ間は繰り返し評価する必要があります。評価の直後に心肺停止に移行していたとしても、繰り返し評価をしていれば、すぐに心肺停止であることを認識できるかもしれません。もし、救急車が到着するまでの9分間、全く心肺蘇生をしなかったのであれば、救命率は約63%~90%低下することになります。そうなれば、後遺症なく社会復帰できる可能性は大幅に低下してしまいます。
加えて、適切に評価できれば、その後も適切に救命処置が実施できるとは限りません。AED設置の不備や救命処置の手技が不適切で救命を妨げるケースも十分に考えられます。あらゆる事態が考えられますので、もしものときの備えは重要です。

5. 海外の学校における心肺停止の実情

小・中学校で起こった学生の心肺停止を分析した海外の調査では、校内で発生した心肺停止32例のうち、実際に心肺蘇生が実施されたのは27例(84%)でした3)。
※倒れた際の目撃あり31例(97%)、最初の心電図波形:心室細動28例(88%)。

小・中学校での心肺停止
【図2】小・中学校での心肺停止(文献4をもとに作成)

心肺蘇生の実施率84%という数値だけを見れば、決して低くないと感じられるかもしれません。一方、心肺蘇生が実施できなかった5例(16%)にも注目しましょう。心肺蘇生が実施されなかったということは、その前段階の評価が上手くいかなかったと考えられます。普段はシンプルにできてしまうようなことが、緊急時には途端にできなくときがありますよね。救助者がいつもと違う心理状態になってしまうことも、実施率100%にはならなかった一因だと考えられます。これは、日本・海外問わず、どの学校でも起こることだといえます。
確かに、胸骨圧迫を実施しても救命できるとは限りません。しかし、胸骨圧迫を実施せずに救命できる心肺停止はありません。“防ぎえた死”を減らすには、どんなときでも適切に意識・呼吸・循環を評価できることが求められます。
また、32例を一括りで考えれば、そのうちの27例で心肺蘇生が実施されたことは十分であるように思えます。「実施率100%までもう少しだった」と言いたくなる出来なのかもしれません。ただ、皆さんの近くで心肺停止が起これば、分母は1例なので、適切な心肺蘇生ができたかどうかは100%か0%で二極化します。職員の立場で考えればかけがえのない学生が倒れた、親御さんの立場ではかけがえのない息子や娘が倒れたことになります。結果として残るのは、救命できたかできなかったか。そこに「もう少しだった」は存在しませんよね。
先ほどの調査において、AEDの装着数を集計すると、12例(38%)とさらに実施割合は低下します3)。約15年前の調査なのでAEDを取り巻く社会情勢は、現在と異なるかもしれません。現代でも、AEDの操作法は比較的よく知られているのに、いったいどんなメカニズムなのか把握して使用している方はそう多くはないと感じます。たとえ操作法を理解していても、使用するまでの判断が誤っていれば、AEDを持ってくることさえできません。

6. 救命処置をトータルで学ぶには

アメリカ心臓協会のBLSコースは、動画教材を使用し、成人の胸骨圧迫・人工呼吸・AEDはもちろん、小児・乳児の救命処置にも対応しています。窒息時の対応も含んでいますので、心臓病突然死のみならず、学校やスポーツ施設等で起こりうる事故対応を広くカバーすることができます。他の救命講習コースでは、〇×問題の修了テスト等で理解度を確認するものもありますが、アメリカ心臓協会のコースは専門のインストラクターが評価を行い、知識と技術の習熟度を詳細にフィードバックいたします。客観的な評価をもとに、ご自身が習熟すべき手技を把握していただき、救命スキルの向上に役立てられます。

7. 知識や技術だけでは解決できない“見えない問題”とは?

知識と技術を身に着ければ、必ず心肺蘇生を実施できるでしょうか。緊張したら動けないかもしれないから、度胸が必要であるという声も聞こえてきそうです。
救命講習では、男性のマネキンや男性をモデルとしたビデオを使用することがほとんどですので、知らず知らずのうちに“傷病者=男性”というイメージが根付いている方もいらっしゃるかもしれません。もし、傷病者が女性であれば、救助者がAEDの装着に躊躇してしまうことは当然あると考えられます。AEDを装着するときに服を全部脱がせなければならないというイメージが先行してしまうのも要因のひとつでしょう。先ほどの事例も傷病者は女性でした。救助者の立場で考えると、AEDの装着に躊躇する要因があればあるほど、「どうにか呼吸があってほしい」という感情が出てきます。そのような心理状態では、死戦期呼吸の特徴(下顎の動きやいびき音)でさえ、正常の呼吸があるように強く錯覚させてしまうのかもしれませんね。これは単なるAEDの知識や救急場面での度胸の問題ではなく、社会全体として丁寧に向き合わなければならない課題だと感じます。

まとめ

今回は、死戦期呼吸を見逃さないために事例を交えながら解説をしてきました。何事も未経験のものはイメージさえ沸かずになかなか上手くいきません。非常時に備えて、普段からどれだけの対策ができるかが重要だと考えます。

【参考文献】

1) アメリカ心臓協会,BLSプロバイダーマニュアル,AHA,p.17

2)さいたま市教育委員会,体育活動時等における事故対応テキスト~ASUKAモデル~(2023年5月9日参照)
3) Yoshihide Mitani et al.,Circumstances and Outcomes of Out-Of-Hospital Cardiac Arrest in Elementary and Middle School Students in the Era of Public-Access Defibrillation– Implications for Emergency Preparedness in Schools –,Circ J 2014; 78: 701–707
4)文部科学省,「学校の危機管理マニュアル作成の手引」の作成について(2023年5月9日参照)

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