新型コロナウイルス感染症疑いの患者、陽性患者が心肺停止になったら?
新型コロナウイルス感染症疑いのためERの個室で検査結果待ちの患者、すでに陽性が確定しており病棟の陰圧室に入院している患者、このような状況の患者が心肺停止になってしまった場合、通常のBLSアルゴリズムに沿って救命処置をしてもよいでしょうか。院内を想定して説明していきます。
一般的なBLSの流れについては下記のページを参考にしてください。
【関連記事】BLS(一次救命処置)とは | BLSの手順とAHA(アメリカ心臓協会)公認のBLSコースについて解説
あくまでもBLS(一時救命処置)を念頭にした話ですので、挿管の話などはここでは割愛します。
通常のBLSアルゴリズムに沿って救命処置を行ってもいいの?
結論から申し上げますと、通常のBLSアルゴリズムではなく、新型コロナウイルス感染症のBLSアルゴリズムを使用します。“感染予防”という観点が加わり、大きく変更されている箇所もありますので、詳しく見ていきましょう。
感染防御具を装着するまで病室に入ってはいけない
たとえ、CPRの開始が遅れる可能性があっても、自分自身やスタッフの安全を最優先に行動します。通常のBLSアルゴリズムでも「周囲の安全確認」はありますが、新型コロナウイルス感染症のBLSアルゴリズムには「PPE(個人防護具)の着用」が加わっています。新型コロナウイルスは飛沫、接触が主な感染経路とされていますが、呼気から出されるエアロゾルという微細な粒子も感染力があると考えられています。
胸骨圧迫は5cm以上、100~120回/分のテンポで、繰り返し胸を押す手技です。圧迫する度に口からエアロゾルが排出され、空気中に漂います。胸骨圧迫に限らず、救命処置はエアロゾルを発生させる手技が多いため、BLSを行うために病室へ入る前には、N95マスクを含む適切なPPEを着用した上で入室します。
CPRに関わるスタッフ数を制限する
通常のBLSアルゴリズムでは、応援を呼ぶことで多くの人が救命処置に参加するかもしれませんが、新型コロナウイルス感染症のBLSアルゴリズムでは「人員の制限」を行います。エアロゾルが発生している病室に入るスタッフの数を制限することで、新型コロナウイルスに触れる人員を最小限にします。
原則、ハンズオンリーCPRを行う
新型コロナウイルス感染症疑い、または陽性患者が心肺停止となった場合、スタッフはPPEを装着した人から病室内に入るため、最初から複数人数で救命処置を行えるとは限りません。第一発見者(最初に入室したスタッフ)は、初期評価を行った後に、心肺停止ならば通常CPR1人法を行うことになりますが、ポケットマスク換気はウイルス曝露の危険性があるため、原則としてハンズオンリーCPRを行います。
圧迫の度にエアロゾルが発生しますので、胸骨圧迫を行う前には、患者の口をフェイスマスクやサージカルマスク等で覆いましょう。2人目以降のスタッフが入室したときに、しっかりと密閉されたフィルター付きバックマスクが使用できるならば、胸骨圧迫30回:人工呼吸2回のサイクルでCPR2人法を行います。
Hands only CPRについては下記のページで解説していますので、そちらを参考にしてください。
【関連記事】BLS(一次救命処置)とは | BLSの手順とAHA(アメリカ心臓協会)公認のBLSコースについて解説
AEDはただちに使用する
AEDは通常のBLSアルゴリズムと同様にできるだけ早く使用します。スタッフの安全を守りながら、迅速な除細動を行うためには、誰がAEDを取りに行くのか(あらかじめ病室内に設置しておくか)、どのエリアでAEDの受け渡しをするのか、明確に指示を出す必要があります。特に、病室内ではCPRに参加するスタッフの数を制限しているので、役割を兼務する必要性があるかもしれません。明確な役割分担が必要です。
参考文献
1)BLS Healthcare Provider Adult Cardiac Arrest Algorithm for Suspected or Confirmed COVID-19 Patients(AHA)
2)ICUにおけるCOVID-19患者に対する看護Q&A(日本集中治療医学会)
https://www.jsicm.org/news/upload/COVID-19_nursing_Q&A_v2.pdf