ACLSとは|ACLSの要点整理|Ⅵ、頻拍への臨床的対応

  • 2018年1月7日
  • 2023年12月24日
  • 05)ACLS
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徐脈・頻拍に対する臨床的対応の全体像

徐脈・頻拍の診療を行う場合に重要なことは、その徐脈・頻拍が不安定な状態にあるかどうかの診断です。

不安定な状態にある徐脈を症候性徐脈(symptomatic bradycardia)、頻拍を不安定な頻拍(unstable tachycardia)といいます。

また、不安定な状態にある徐脈・頻拍は心拍数が不安定領域に入っており、臨床的には緊急且つ重篤な状態です。徐脈の不安定領域とは心拍数が50回/分未満で、頻拍の不安定領域とは心拍数が150回/分を超える場合です。

逆に言えば、不安定領域に入っていない徐脈・頻拍は不安定な状態とは考えられず、現時点では緊急性の低い状態です。このあと、徐脈・頻拍の診療アルゴリズムについて説明しますが、診療アルゴリズムで最も重要なことは症候性徐脈、不安定な頻拍の診断です。

尚、このページでは頻拍に対する臨床的対応にテーマを絞って説明していきます。
徐脈に関しては以下の記事に詳しく説明していますので、そちらからご確認ください。

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頻拍の診断・治療の基本的な考え方

頻拍に対する診療アルゴリズムの全体的な流れは【図表6-1】(このページの一番下に掲載)のとおりです。

それを、一つずつ順番に、「1、不安定な頻拍か安定した頻拍かの診断」、「2、不安定な頻拍の治療」、「3、安定した頻拍の治療」、「4、頻拍診療のアルゴリズム(1~3のまとめ)」の順で順序立てて見ていきましょう。

1、最初に行うことは「不安定な頻拍」か「安定した頻拍」かの診断!

最初のステップは、前述したとおり、その頻拍が不安定な状態なのか安定した状態なのかの診断です。 不安定な状態の頻拍を不安定な頻拍といい、安定した状態の頻拍を安定した頻拍(stable tachycardia)といいます。

不安定な頻拍と安定した頻拍の診断基準の詳細は【図表6-2】のとおりですが、これら全ての項目を満たしたものが不安定な頻拍、必ずしも全てを満たしていないものが安定した頻拍です。

まず、心拍数に対する注意事項ですが、不安定な頻拍の心拍数は通常150回/分を超え、150回/分以下では不安定な頻拍となることはまずありません。しかし、心拍数が150回/分を超えた場合、必ずしも不安定な頻拍ではなく、安定した頻拍の場合もあります。

つまり、心拍数が150回/分を超えた場合は不安定な頻拍の場合も安定した頻拍の場合も両方ありますが、心拍数が150回/分以下のの場合は安定した頻拍となります。

重篤な自覚症状や他覚所見については、これらが全て頻拍が原因で起こった場合が不安定な頻拍の必要条件になります。

いずれにしても現実的な不安定な頻拍の診断基準は、①心拍数が150回/分を超える、②重篤な自覚症状(動悸、胸痛、呼吸困難、意識障害、失神・失神性めまいなど)、③重篤な他覚所見(血圧低下、ショックなど)の3つを全て満たしたものです。そして、同時に頻拍の波形診断も行います。

図表6-2】不安定な頻拍の診断基準

以下の1~4を満たしたものを不安定な頻拍という。
1.心拍数は通常150回/分を超える。
 2.重篤な自覚症状がある。

動悸、胸痛、呼吸困難、意識障害、失神・失神性めまいなど

3.重篤な他覚所見がある。

血圧低下(ショック)、左心不全・肺水腫、急性心筋梗塞など

4.上記2・3は、頻拍が原因で起こっている。

 

2、不安定な頻拍と診断されたらカルディオバージョン!

不安定な頻拍と診断されれば治療は原則としてカルディオバージョン(同期カルディオバージョン、同期電気ショック)を行います。 尚、多形性心室頻拍に対しては非同期下ショックを行います。

カルディオバージョン、非同期下ショックの詳細については以下のリンク「ACLSとは|ACLSについての要点を整理|Ⅲ、電気治療」を参照してください。
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不安定な頻拍に対する治療は、薬剤治療では効果はなく、電気治療(カルディオバージョン)しかありません。 不安定な頻拍の各波形とカルディオバージョン・非同期下ショックのエネルギー量の関係は、G-2020から個々の装置で推奨されるエネルギーに従う」となりました。一般的には以下のとおりです(G-2015準拠)。

カルディオバージョン



3、安定した頻拍に対しては薬剤治療を行う!

不安定な頻拍ではないと診断されれば安定した頻拍(stable tachycardiaということになります。 典型的な安定した頻拍とは、動悸以外の重篤な自覚症状がなく、重篤な他覚所見もない頻拍ですが、心拍数は必ずしも150回/分以下とは限りません。

安定した頻拍に対する治療は、心電図診断を行った後、各頻拍に対して原則薬剤治療が1剤のみ許容されます。 これで効果がなかった場合は、2剤目はカルディオバージョンとなります。 ちなみに、アデノシン(日本ではATP、米国ではADP)は半減期が非常に短いため薬剤治療の1剤とは考えません。

薬剤治療が1剤のみ使用可である理由は、全ての抗不整脈薬は催不整脈作用を有するため、複数の薬剤を使用することは逆に催不整脈作用の懸念があるためです。

ちなみに、薬剤治療の他の頻拍の対応法として、迷走神経刺激法というものがあります。具体的にはバルサルバ法や頚動脈洞マッサージといった方法があります。これらも正しい方法、リスクを分かった上で、適宜使用することは効果的です。

バルサルバ法に関しては下記のページを参考にしてください。

【参考】バルサルバ法(バルサルバ手技)とは | バルサルバ法の方法とそのメカニズムについて解説

各安定した頻拍に対する対応を以下にまとめましたので、参考にしてください。

心電図診断 → 薬剤療法(1剤のみ可、アデノシンは1剤とは考えない)→ 薬剤で効果がなければカルディオバージョン

1、洞性頻拍(ST:sinus tachycardia)

原因治療が必要である。原因の代表的なものとして発熱、貧血、ショック、過換気症候群、甲状腺機能亢進症などがある。

2、発作性上室性頻拍(PSVT:paroxysmal supraventricular tachycardia)

迷走神経刺激 → アデノシン投与(3回まで可)
効果がなければ専門医に相談 → Ca拮抗薬、β遮断薬

3、心房細動(AF:atrial fibrillation)、心房粗動(AFL:atrial flutter)

診断が付けば、専門医にコンサルテーションする。

治療の第1はレートコントロールである。レートコントロールのために使う薬剤はCa拮抗薬(ジルチアゼム、ベラパミル)、β遮断薬などであるが、肺疾患やうっ血性心不全がある患者の場合はβ遮断薬を慎重に投与する必要がある。

4、単形性心室頻拍(monomorphic VT)

QRS幅の広い頻拍を診た時点で専門医にコンサルテーションする。

治療はプロカインアミド、アミオダロン、ソタロールの投与である。

5、変行伝導を伴う上室性頻拍

QRS幅の広い頻拍を診た時点で専門医にコンサルテーションする。

安定していれば診断のためにアデノシンの投与が許容されている。

アデノシン投与で一時的に徐脈になるか洞性リズムに復帰する。

6、偽性心室頻拍(pseudo VT):WPW+AF

QRS幅の広い頻拍を診た時点で専門医にコンサルテーションする。

治療はプロカインアミド、アミオダロンの投与である。

房室結節遮断薬(アデノシン、β遮断薬、Ca拮抗剤、ジゴキシンなど)は禁忌。

4、頻拍への治療の全体像

さて、ここまできたら、今までのことを簡潔にまとめてある【図表6-1】を見ていきましょう。 これが、頻拍に対する臨床的対応の全体像です。

頻拍診療のアルゴリズム

どうでしょうか。このように順序立てて論理的に考えていけば、頻拍に対する臨床的対応もしっかりと理解できたのではないでしょうか。

さて、ここでは頻拍について学んできましたが、その他セクションのACLSの要点整理は、以下のリンクよりご確認ください。

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