心肺蘇生・AED(1):心肺停止と救命率

01、心肺停止と救命率

1、心肺停止になって、人は助かるのか?

今まで元気(普通)にしていた人が急に倒れて心肺停止に陥った場合、人は助かるのでしょうか。助かる可能性(救命率)はどれぐらいあるのでしょうか。また、助けるためにしなければならないことはどういうことなのでしょうか。ここではこのことについてお話していきます。

心肺停止については次に述べるとして、救命率蘇生率の違いにについて先に触れておきます。蘇生率とは心拍が戻る率のことです。呼吸や意識が戻らなくても心拍が戻れば蘇生された、ということになります。呼吸までは戻ったが意識が戻らなければ植物状態(ねたきり状態)ということになります。

それに対して、救命率とは、心拍が戻り、呼吸も戻り、意識も戻る率をいいます。ですから、救命率とは社会復帰率に近い概念です。救命されたということは、日常生活ができる状態に戻った、ということになります。ここでは、救命をさせるために何をしなければならないかについて述べていきます。

2、心肺停止とは、「意識(反応)なし、呼吸なし、循環(脈)なし」

心肺停止とは、臨床現場で最も重篤且つ緊急度の高い病態で、「意識なし、呼吸なし、循環なし」の状態をいいます。ここで、重要な病態を説明する概念が3つ出てきました、「意識なし」、「呼吸なし」、「循環なし」です。これらについて次に説明を加えます。

心肺停止となった際のBLS(一次救命処置)の流れについては下記のページで解説していますので、参考にしてください。

【関連記事】BLS(一次救命処置)とは | BLSの手順とAHA(アメリカ心臓協会)公認のBLSコースについて解説

「意識なし」とは、「全く反応がない状態」です。反応なしとも言います。JCS(Japan Coma Scale)では300、GCS(Glasgow Coma Scale)では3点の状態です。

「呼吸なし」とは、「無呼吸または死戦期呼吸(あえぎ呼吸)の状態」をいいます。無呼吸とは呼吸運動が全くない状態です。胸と口の動きが全くないことで評価できます。死戦期呼吸とは、あえいだ呼吸がみられるのであえぎ呼吸ともいいます。

そもそも、呼吸ありとは、呼吸運動に連続性または規則性を認めた場合をいいますので、呼吸なしとは、呼吸運動に連続性も規則性も認めないもの、ということになります。ですから、死戦期呼吸は連続性も規則性も認められず、あえいだ呼吸が不規則に認められた状態です。

死戦期呼吸に関しては、こちらで特集していますので、ここからご覧ください。

【関連記事】死戦期呼吸とは

具体的には、無呼吸状態があり、急にあえぎ呼吸がみられ、また無呼吸が続く呼吸状態のことです。この死戦期呼吸は必ず最終的に無呼吸になるため、呼吸なしと判定します。

「循環なし」とは、「頸動脈(または大腿動脈)が触れない状態」をいいます。脈なしともいいます。この循環確認は通常5秒以上10秒以内に行い、決して10秒を超えてはいけません。もし、10秒しても評価不能な場合は循環なしと判定します。

3、急変による心肺停止の原因は、ほとんど急性心筋梗塞直後の心室細動

今まで元気(普通)にしていた人が急に倒れて心肺停止に陥った場合、その原因のほとんどは急性心筋梗塞で、その直後に致死的不整脈である心室細動(VFが起きたためです。心室細動(VF)とは、心肺停止の中の一つで、心肺停止の中で最も救命される可能性が高い状態です。心臓が小刻みに(異常に)震えている状態で、心臓は小刻みに動いていますが、心臓から全身に運ばれなければならない血液がほとんど送られていない状態です。

4、心室細動への対応法は、除細動(電気ショック)のみ!

心室細動の状態を元の正常な状態に戻すためには除細動器AED(自動体外除細動器)による除細動(電気ショック)を行う以外に方法がありません。ちなみに、除細動を行うことを、ショックまたは電気ショックを行うとも言います。

【参考】【医師監修】AEDの使い方について基礎から解説

それも心肺停止後、除細動(電気ショック)までの時間が10分以上も経過しますとほとんど人は助かりません。除細動(電気ショック)までの時間が遅くなればなるほど助かる可能性が低くなり、逆に早ければ早いほど助かる可能性が高くなるのです。

5、除細動までの時間が1分遅れるごとに7~10%救命率が下がる

具体的には、心肺停止後AEDによる除細動(電気ショック)までの時間と救命率(社会復帰までできる確率)の関係は図1のとおりで、心肺停止に陥ったあと除細動(電気ショック)が1分遅れるごとに救命率(社会復帰できる確率)は7~10%ずつ下がっていきます。これにより、10分以上放置されるとほとんど助からないことが理解できると思います。

除細動までの時間と救命率

現在の日本では、AEDによる除細動(電気ショック)は通常、救急車が来てから行われますので、救急車の現場到着までの時間に左右されます。現在の日本では、通報後救急車が現場到着まで平均10分以上かかっていますので、現在の日本の平均救命率は1~2%でしかありません。

ところが、世界で最も救命率の高いところ(場所)では70%に及ぶところがあります。それはアメリカのある国際空港です。ここで人が倒れますと救命率が70%にもなるのです。

理屈は簡単です。国際空港ですから人がたくさんいます。急に倒れた人がいると誰かがすぐに見つけてくれます。その後すぐに誰かがAEDを取りに行くのですが、空港のどこで倒れてもAEDを取りに行って倒れた人のところまで帰ってくるのに、平均3分で帰ることができるようにAEDがたくさん置かれているのです。そうすれば、倒れてから平均3分で除細動(電気ショック)がかかることになりますので救命率は70%ということになります。

6、人が急変する場所で最も多いのは本人の自宅です。もし、一家に一台AEDが置かれていれば救命率は・・・

現在、日本でも人が多く集まる場所ではAEDの設置が進んでいます。これは、社会としての急変への対応の第一歩として非常に重要なことです。人がたくさん集まる場所はあまり集まらない場所に比べて急変が起きる可能性が高いのは当然ですから、社会としてこのような取り組みは必要です。

しかし、一個人という視点で見た場合、人が急変する可能性が最も高いのはどこだと思いますか。人がたくさん集まる場所ではなく、その人が最も長く居る場所ですから、そうです、皆さん自身の自宅なのです。また、自宅で急変する割合は70~80%にもなり、自宅以外での急変を明らかに上回っています。ですから、一個人という視点でみると、一家に一台AEDが置かれていることの方が皆さんにとってはメリットが多いということになります。

この理屈から言いますと、救命率を上げるための究極的な考え方は、一家に一台、自宅にAEDを置いておくことになります。もし、一家に一台AEDが置かれてそれを皆さんがきちんと使うことができれば救命率は上がるはずです。

つまり、急変を確認したあと、119番通報し、電話で対応方法の指示を受けて、必要であれば皆さんがAEDで徐細動を行えば良いのです。しかし、この話は現実的には非常に難しい状態です。その理由は、AEDを自宅に置く意味が一般の方には理解されていないことと、AEDの値段が高いためです。

AEDは1台約20万円ぐらいですので、AEDを自宅に置く意味がわからなければ当然人は買うことはないでしょう。大分部の人にとって、急変は、自分の周りでは起きないと思っていますので、AEDを自宅に置く意味の理解が難しいというのが現状です。

しかし、家族に心臓病をもっている人がいる家庭では自宅にAEDを置いているところは少なくありません。それは、AEDを置く意味を理解しているためです。人の命が20万円で助かるのなら高くはありません。

尚、AEDの価格を市場経済の理屈から考えてみますと、一般市民の方々が各自宅にAEDを置く意味を理解し、自宅にAEDを置き始めますと(AEDの購入が始まりますと)、テレビやDVDレコーダーのようにどんどん価格が下がっていって買いやすい値段になっていくはずです。ですから、この一家に一台AEDの設置というのは将来の課題として考えていくべきでしょう。

ところで、日本での現在の人口比に対するAEDの設置率は、先進国の中で高いのでしょうかそれとも低いのでしょうか。この質問をするとほとんどの人が低いと答えます。ところが実際は、アメリカを抜いて人口比に対するAEDの設置率は、日本が世界一位なのです。

なぜ、皆さんはこの設置率を低いと思うのか、AEDが実際に使われていないと実感しているからです。確かに、設置はされていますが使われていないのです。つまり、宝のもちぐさりになっているのです。非常にもったいない話です。

7、現実的に救命率を上げる方法は?

さて、この現状で救命率を上げる方法が現実的に存在するのか、ということになります。つまり、人を助けるために絶対に必要な器具が急変後ある一定の時間内に手元に届かなければならないのに、それが現実的にほとんど難しい状況の中で人を助ける方法があるのか、ということです。

まず、傷病者に対して救助者が、AEDが届くまで何もしなければ、急変してから除細動(電気ショック)までの時間が1分遅れるごとに救命率は7~10%下がるのです。実際、日本の現状を考えますと、まだまだ救急車が来るまで何もしていないというのが多いので、図1の理屈は日本の現状とも言えます。

しかし、傷病者に対して救助者が、AEDが届くまで、質の高いCPR(胸骨圧迫と人工呼吸)を行えば何もしない時に比べて救命率は2~3倍高くなります。つまり、何もしなければ急変してから除細動(ショック)までの時間が1分遅れるごとに救命率は7~10%下がるのに対して、質の高いCPRが行われますと、急変してから除細動(ショック)までの時間が1分遅れるごとに救命率は3~4%の低下にとどまり(図2)、実質上何もしない時に比べて救命率は2~3倍高くなるのです。

質の高いCPRを行うために何か高額な機器を買う必要はありません、高額なお金も必要ありません。心肺蘇生に関する実践的な正しい教育を受ければ大丈夫です。

除細動までの時間と救命率、その2(質の高いCPRが行われた場合)

8、救命率を上げるための必要条件とは、質の高いCPRと迅速な除細動(AED使用)

まず、心肺停止への現実的な対処法について、今まで説明してきたことを再度整理してまとめます。

  1. 急変による心肺停止は、ほとんどが心筋梗塞後の心室細動という致死的な不整脈が原因である。
  2. 心室細動を治す方法はAEDなどで除細動(電気ショック)を行うことしかない。
  3. 何もしなければ、急変してから除細動(電気ショック)までの時間が1分遅れるごとに救命率は7~10%下がり、10分を超えると救命率は非常に低くなる。
  4. しかし、除細動(ショック)までに質の高いCPRを行うと、除細動(電気ショック)までの時間が1分遅れるごとに救命率は3~4%の低下にとどめることができ、何もしない場合に比べて平均2~3倍救命率が上がる。
  5. 現在の日本ではAEDによる除細動(電気ショック)は救急車が現場に来てからでないと行えないのが現状なので、救急車が現場到着するまでは質の高いCPRを行うことで救命率の上昇を実現できる。
  6. もし、自宅にAEDがあれば、急変してから除細動(電気ショック)をかけるまでの時間を大幅に短縮できるが、自宅にAEDを置くという発想は現時点では現実的に非常に難しく、将来の課題である。

これらをもっと簡単にまとめると、心肺停止に対して行わなければならないことは、1)質の高いCPR、と2)迅速な除細動(AED使用)、この二つにつきるということです。この二つを行えば助かるはずの命が助かるのです。

今まで、心肺停止及びその対応法について理屈の部分を述べてきました。理屈は理解できたとしても救命率は上がりません。この理屈を実践できるようにならなければなりません。そのためにはBLSコースを受講することをお勧めします。BLSコースを受講すれば、今まで述べてきたことが実感できるはずです。

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