急性冠症候群における酸素投与について考える

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救急医療の現場で静脈路の確保、酸素投与などはもっとも多く行われる治療になりますよね。
特に酸素投与は、SpO2の上昇や呼吸苦の軽減(呼吸困難感の軽減)が直ぐに期待できるため安易に行いたくなることも多いのではないでしょうか。
しかし、現在その酸素投与については様々な議論がされています。「入れすぎは悪い」「むしろ投与しなくても良い」など、どのように取り扱えば良いのかわからなくなる時があります。今回は最近の酸素投与に関する海外の文献から、どうすればいいのかと考えてみました。あくまでも個人的な見解でありますので、ふーんという感じで読んでいただければ幸いです。

酸素投与について

酸素療法の目的は、室内空気(21%)では組織(心臓や脳その他、生命を構成する臓器)酸素の供給が不十分となり細胞のエネルギー代謝が障害された状態を低酸素症といます。
そのため、 低酸素症に対して吸入気の酸素濃度 (FIO2)を高めて、適量の酸素を投与す る治療法が酸素療法となります。
一般的に低酸素症とは、室内気にて、PaO2<60mmHgまたは、PaO2<90%を指しますが、慢性的に酸素飽和度が低い患者さん(慢性閉塞性肺疾患:COPD)などの方もいらっしゃいますので、一概には言えない状態ですが、とにかく、その酸素濃度であれば生命の維持が困難な状態に酸素療法を開始します。その酸素療法の投与方法は一般的に下記(表1)の方法がありますが、それぞれ投与できる酸素濃度が異なってきます。大事なことは「どのくらいの酸素濃度を投与すれば低酸素症が改善できるか」を考えて投与することになります。

(表1)酸素投与器具と最大酸素投与の目安

酸素投与器具 その器具で投与できる最大酸素濃度の目安
酸素カニューラ 30%
酸素マスク 60%
リザーバー付き酸素マスク 100%

酸素濃度(FiO2:%)と酸素投与流量(L/分)にかんする詳細は、以下の記事で詳しく解説してありますので参考にしてください。
【関連記事】自発呼吸がある場合の酸素濃度(FiO2:%)と酸素投与流量(L/分)

酸素は毒なの?

体内の組織の機能を維持するのに大事な酸素ですが、一方で酸素は生体にとって悪影響を及ぼすこともあります。「酸素中毒」と言って、組織を障害する側面があり、日本救急医学会では酸素中毒を次のように定義しています。

過剰な酸素が,生体の解毒機能を超えて有害な作用をきたした状態。障害の主な標的臓器は中枢神経系と肺である。2‐3気圧以上の高い分圧の酸素を吸入する高気圧酸素療法では,生体の細胞代謝が障害され,心窩部や前胸部の不快感・嘔吐・めまい・視野狭窄など,時には短時間で痙攣発作と昏睡がみられることがある。これが急性酸素中毒である。一方,吸入気酸素濃度50%以上の高濃度酸素を長時間吸入することにより気道粘膜や肺胞が障害され,重篤な場合は呼吸不全に陥る。障害機序は酸素由来のフリーラジカルによる細胞障害が想定されている。とくに人工呼吸器による呼吸管理をおこなっているときは,動脈血酸素分圧を70-100mmHgに維持するように吸入酸素濃度を設定すべきとする報告もある(Castleman B, et al: N Engl J Med 1970; 282: 976)。可及的早期に吸入酸素濃度は下げるべきであるが,一般的に肺胞気酸素濃度が60%以下なら長期の酸素吸入でも安全とされている。

日本救急医学会:酸素中毒より引用

このように酸素を投与しすぎると酸素療法は、むしろ悪となるわけです。

急性冠症候群に対する酸素投与について

上記のように入れすぎてはいけない酸素ですが、それぞれの疾患によってもその取り扱いは変わってくるようです。ここでは主に心筋梗塞の酸素投与について述べていきたいともいます。

1900年代の半ばまで虚血性心疾患に対して酸素投与は臨床的な改善が認められたと肯定的な報告がされ(JAMA1940;114:1512)、AHA2010以前のガイドラインでは酸素はルーチン投与されていました。しかし、2015年以前に急性心筋梗塞に対する酸素投与の研究はわずかで、しかも酸素投与群で2倍の死亡リスクが高いことが報告されました(Cochrene Databese Syst Rev.2013;(8):CD007160)。ここでAHA2010ガイドラインでは急性冠動脈症候群(ACS:acute coronary syndrome)での酸素投与は低酸素状態でない患者さんにもClassⅡbの推奨度で妥当だというところで留まっています。
その後、2016年に発表された研究(Air Versus Oxygen in ST-segment-Elevatiomn Myocardial Infarction Stub D,AVOID Investigators.Circulation2015Jun 16;131(24):2143-2150)では1次エンドポイントを72時間、2次エンドポイントを6ヶ月において、それぞれの心筋梗塞サイズを評価として実施してます。
結果として、1ヶ月後には酸素投与群で心筋障害に有意差があり、6ヶ月後には酸素投与群と酸素なし群で有意差無しとの結果が出ています。これを受けてAHAガイドライン2015では、「酸素飽和度が正常な患者に対する酸素投与の有効性は確立されていない。プレホスピタル、救急部、および入院中は、酸素飽和度が正常でACSが疑われる患者または確定患者への酸素投与を控えることを考慮しても良い(ClassⅡb)ととても消極的な文言に変わっています。

ここまでの話であれば「やっぱり酸素はあまり投与してはいけないんだ…」となってしまいますが、ここで2017年にさらに新しい文献が発表されました。「Oxygen Therapy in Suspected Acute Myocardial Infarction;NEJM2017」では、1次エンドポイントを1年後の死亡率を評価としています。そこでの結果は酸素投与群と非酸素投与群では有意差はなかったと報告しています。

急性冠症候群に対する酸素投与の考え方

こうなってくると酸素の投与はどうすればいいんだってなってきますよね。そもそも急性冠症候群に酸素投与そのものが関係がないのではないかとも考えてしまいます。今後は様々な研究の結果を待つのみですが、いずれにしても正常の酸素飽和度を保つことは大事なことですので、その患者さんが元来持っている酸素飽和度を維持できない、酸素濃度が低いことで何らかの症状を呈している、組織損傷が疑われるのであれば適正な酸素濃度を保ちつつ経過観察していくとが重要なのではないかと考えます。

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