1、電気治療の概念と分類
電気治療とは、除細動の適応がある心肺停止(心室細動・無脈性心室頻拍:VF / pulseless VT)や循環動態が不良な頻拍(不安定な頻拍)・徐脈(症候性徐脈)に対して行う電気を使った治療のことです。
VF / pulseless VTに対する電気治療を除細動、不安定な頻拍に対する電気治療をカルディオバージョン、症候性徐脈に対する電気治療を経皮的ペーシング(TCP)といいます。尚、除細動とカルディオバージョンは電気的治療の行為をともに「ショックを行う」ともいいます。
1)除細動(defibrillation)
-非同期電気ショック(unsynchronized shocks)を含む-
2)(同期)カルディオバージョン(synchronized cardioversion )
3)経皮的ペーシング(TCP:trans-cutaneous pacing)
電気治療の全体像は【図表3-1】のとおりです。
【図表3-1】電気治療の全体像
心肺停止、不安定な頻拍及び症候性除脈についての詳細は、リンクを貼っておきますので「ACLSとは|ACLSについての要点を整理|Ⅳ、心肺停止」、「ACLSとは|ACLSについての要点を整理|Ⅴ、徐脈への臨床的対応」、「ACLSとは|ACLSについての要点を整理|Ⅵ、頻拍への臨床的対応」を参照してください。
皆さんは心肺停止の患者に出会した際に、その対応に自信はもてますか?院内に勤務していると、定期的に心肺停止が起こります。もちろん、心肺停止に至らないように対応するということが一番ですが、心肺停止の患者に対しての対応を正しく理解すること[…]
徐脈・頻拍に対する臨床的対応の全体像徐脈・頻拍の診療を行う場合に重要なことは、その徐脈・頻拍が不安定な状態にあるかどうかの診断です。不安定な状態にある徐脈を症候性徐脈(symptomatic bradycardia)、頻拍を不安[…]
徐脈・頻拍に対する臨床的対応の全体像徐脈・頻拍の診療を行う場合に重要なことは、その徐脈・頻拍が不安定な状態にあるかどうかの診断です。不安定な状態にある徐脈を症候性徐脈(symptomatic bradycardia)、頻拍を不安[…]
電気治療の対象となる病態は心肺停止周辺の病態で、薬剤ではもはや改善しない、または改善が期待されないと考えられる病態です。ちなみに、除細動の適応がない心停止であるPEA / asystoleには電気的治療の適応さえありません。
除細動、(同期)カルディオバージョン、経皮的ペーシング(TCP)の手技についての説明はここでは省略します。(今後、手技についても説明を加えていきたいと思いますので、しばしお待ちください!2018.1.8)
2、除細動とカルディオバージョンの違い
除細動とは、前述したとおり、除細動の適応がある心肺停止(心室細動・無脈性心室頻拍:VF / pulseless VT)に対する電気治療のことです。
そして、カルディオバージョンとは、基本的には不安定な頻拍に対する電気治療のことです。カルディオバージョンは別名、同期カルディオバージョンまたは同期電気ショックとも言われ、それは、必ず同期をかけなければならないからです。
除細動とカルディオバージョンは基本的手技が良く似ていますが、両者の手技には3つの違いがあります。それは、1)同期の有無、2)エネルギー量、3)放電後の手技です。その違いは図表3-3のとおりです。この後1つずつ順番に解説していきます。ちなみに、カルディオバージョンは意識がある患者に行う場合があり、その場合は必ず鎮静を行います。
【図表3-3】除細動とカルディオバージョンの手技の違い
除細動 | カルディオバージョン | |
同期の有無 | 同期はかけない(非同期) | 同期をかける |
エネルギー量 | 2相性 初回、120~200J 日本では一般的に150J 2回目以降も通常150J 2回目以降の200Jも許容 | 2相性 発作性上室性頻拍、心房粗動 50~100Jから(50→100→150J) 心室頻拍 100Jから(100→150) 心房細動、偽性心室頻拍 120~200J(150→200J) |
1相性 初回360J 2回目以降も360J | 1相性 発作性上室性頻拍、心房粗動 50~100Jから 心室頻拍 100Jから 心房細動、偽性心室頻拍 200Jから | |
放電後の手技 | ただちにCPR 非同期電気ショックの場合は、 チェックパルス(脈拍確認) | チェックパルス(脈拍確認) |
1)同期
それではまずは「同期」について説明していきましょう。同期とは、QRSを認識してR波の直後に放電を行うことです。
心電図上、刺激を加えてはいけないところがありますが、それはT波です。T波のところで放電すると(刺激を加えると)shock on Tとなり、その場合は心室細動(VF)を誘発する危険があります。そのため、T波を避けたところで放電が必要です。
しかし、人間の行為として、心拍数が150回/分を超える頻拍に対してT波を避けて放電することは難しいため、除細動器が自動でR波の直後に放電を行うことができる同期という機能を使って放電を行うのです。
除細動 | カルディオバージョン | |
同期の有無 | 同期はかけない(非同期) | 同期をかける |
2)エネルギー量
次にエネルギー量について見ていきましょう。エネルギー量は、除細動では波形に関わらず一定ですが、カルディオバージョンでは波形により異なってきます。エネルギー量については、G-2020から「個々の装置で推奨されるエネルギーに従う」となりました。一般的には以下のとおりです(G-2015準拠)。
除細動 | カルディオバージョン | |
同期の有無 | 同期はかけない(非同期) | 同期をかける |
エネルギー量 | 2相性 初回、120~200J 日本では一般的に150J 2回目以降も通常150J 2回目以降の200Jも許容 | 2相性 発作性上室性頻拍、心房粗動 50~100Jから(50→100→150J) 心室頻拍 100Jから(100→150) 心房細動、偽性心室頻拍 120~200J(150→200J) |
1相性 初回360J 2回目以降も360J | 1相性 発作性上室性頻拍、心房粗動 50~100Jから 心室頻拍 100Jから 心房細動、偽性心室頻拍 200Jから |
上記、表には1相性、2相性の除細動器の両方について言及しましたが、現在は2相性の除細動器が使われることが一般的であり、波形診断からみた波形ごとの2相性除細動器のカルディオバージョンエネルギー量を【図表3-4】にまとめていますので是非参考にしてください。
3)放電後の手技
最後に放電後の手技についてみていきましょう。放電後の手技の考え方は、心拍がない(心肺停止)場合に電気治療(ショック)を行った場合は放電後CPR、心拍がある場合(不安定な頻拍)に電気治療(ショック)を行った場合は放電後脈拍確認(チェックパルス)です。
除細動は心肺停止に行う電気治療のため放電後はCPRとなり、カルディオバージョンは心拍がある場合に行う電気治療のため放電後は脈拍確認(チェックパルス)となります。
除細動 | カルディオバージョン | |
放電後の手技 | ただちにCPR 非同期電気ショックの場合は、 チェックパルス(脈拍確認) | チェックパルス(脈拍確認) |
さて、ここでは「電気治療」について学んできましたが、その他セクションのACLSの要点整理は、以下のリンクよりご確認ください。