窒息患者に対して胸骨圧迫を実施する理由とは

この記事は下記のような方におススメです。

  • 窒息時の対応を学びたい。
  • 意識を失った窒息患者に対して、呼吸と循環を確認せずに胸骨圧迫を開始することに疑問を持ったことがある。

はじめに

 目の前で窒息が起こったとき、意識があるうちに窒息を解除できれば、心肺停止に陥る可能性は非常に低いです。しかし、異物は簡単に除去できるとは限りません。なかなか窒息が解除できなければ、低酸素によって意識を失い、心肺停止に移行することもあります。もし、窒息に対応した前例がない施設であれば、あらかじめ窒息の対応を熟知しておかなければなりません。

 窒息が原因で意識消失が起こったときには、すぐに胸骨圧迫を開始します。これは、心肺停止で倒れた際の胸骨圧迫とは意味合いが異なります。今回は、窒息を起こした患者に胸骨圧迫を実施する理由をご説明いたします。

※この記事では、あなた以外に窒息解除ができる人がいなかったり、身近に医療器具がなかったりと、救助者自身の手技で窒息を解除しなければならない場面を想定しています。わかりやすいように“患者”と表記していますが、病院内外問わず、窒息を起こした人を指しています。

1.日本で起こる窒息の現状

皆さんは“不慮の事故”と聞くと、どのような内容を思い浮かべますか。交通事故に遭う、プールで溺れる、階段から落ちるなど、連日ニュースで見聞きする事故が真っ先に思い浮かぶかもしれませんね。しかし、不慮の事故での死亡者の内訳を見ると、窒息は第2位に入っており、年間およそ8,000名が命を落としています。

⇒窒息の原因や事例をデータを基に詳しくまとめています。

窒息(低酸素)による心肺停止はなかなか救命が難しいです。学校や施設で窒息が起こった場合、予防策の適切性に焦点が当てられ、検証されているニュースをよく目にしますが、どんなに食事形態を工夫していても、注意深く観察していても、可能性をゼロにすることはできません。万が一を想定して、子どもや高齢者と関わる機会が多い方は、医療資格に関係なく、誰もが窒息時の対応を理解しておく必要があるといえます。

2.「窒息時の対応」の全体像を見てみよう

今回のテーマは「窒息を起こした患者に対する胸骨圧迫」に関してですが、まずは窒息時の対応の全体像を把握した方が理解も進むと考えますので、図1にまとめてご紹介します。窒息時の対応は、意識がある場合とない場合で手技が異なります。

⇒窒息・気道異物の原因と気道閉塞への対応について | AHAガイドラインに沿って解説

窒息対応の全体像
【図1】窒息対応の全体像

意識がある場合

窒息を起こした患者に意識があっても、異物が詰まっていれば声は出ません。「どうしましたか?」と尋ねても明確な応答が得られず、事態をつかむことが難しいですので、「詰まりましたか」など、YesかNoで答えられるクローズドクエスチョンが望ましいです。
成人・小児に対しては、ハイムリッヒ法を用います。患者を立位にしたまま実施します。救助者は患者の背後にまわりこみ、拳で腹部(へその少し上の部分)を引き上げましょう。ここで注意点なのですが、黙って背後にまわってしまうと、救助者が視野から消えてしまうので、心配した窒息患者が後ろを振り向き、いつまで経っても背後にまわりこめないかもしれません。緊急事態で患者も動揺していますので、助けるためには背後にまわりこまなければならない旨を伝えてから、手技を実施した方がスムーズだと考えます。

⇒こちらの記事では、イラストを用いてハイムリッヒ法について説明しています。

乳児の場合は、抱きかかえて、肩甲骨の間を手のひらで5回叩き、胸骨の下半分を指2本で5回突き上げる方法を用います。年齢関係なく、いずれも異物が出るか、意識がなくなるまで、繰り返し実施します。

意識がない場合

窒息を起こした瞬間を目撃しておらず、発見時から意識がない場合もありますが、時間経過とともに途中で意識を失ったとイメージした方が現実に即していると思います。患者が意識を失った場合、年齢問わず、胸骨圧迫からCPRを開始します。

今回は窒息時の対応の全体像を把握していただく目的でご説明しておりますが、個々の詳細な手技は別の記事にてイラスト付きでご紹介しております。こちらもご参照ください。

⇒胸骨圧迫に対する説明に関してはこちらご覧ください

3.窒息を起こした患者に胸骨圧迫を開始する前に、呼吸と循環を確認すべき?

図1でご紹介した通り、窒息患者が意識を失えば胸骨圧迫からCPRを開始する必要があります。しかし、BLSアルゴリズムに沿って胸骨圧迫を開始するタイミングを考えると、意識を評価した後に呼吸と循環を評価し、意識なし・呼吸なし・循環なし(心肺停止)を確認した後でした。ここで「窒息によって意識がなくなったことは確認したが、呼吸と循環を評価せずに胸骨圧迫を開始しても大丈夫なのか」という疑問を持たれる方も少なくありません。結論からいえば、窒息時の胸骨圧迫は“異物を押し上げる”ために実施しているので、BLSアルゴリズムとは意味合いが異なります。意識があるうちはそれぞれハイムリッヒ法か背部叩打・胸部突き上げ法で異物を押し上げようとしていたところ、患者状態に変化(例:意識を失って立てなくなった)があったため、“異物を出す方法”のひとつとして、床に寝かせて胸を圧迫する方法に変更していると考えていただければ、心肺停止に対する胸骨圧迫との違いも明確に整理できると思います。
※異物が詰まったことで酸素の出入りが止まってしまえば、低酸素血症を招きます。異物が除去されなければ、低酸素血症⇒徐脈⇒心肺停止という機序で悪化の一途をたどるため、窒息時のCPRを実施している途中に心肺停止になっている可能性はあります。

4.窒息時のCPRの手技は、心肺停止に対するCPRと全く同じ?

窒息時のCPRの目的は異物除去です。心肺停止に対するCPRと目的が異なるので、手技でも異なる点があります。胸骨圧迫によって異物が押し上げられ、口腔内まで上がってきているのか、目視での確認を追加してください(異物除去=気道開通)。タイミングとしては、人工呼吸を実施する前に毎回行います。「CPRの目的(異物除去)が達成できているのか確認が必要なので手技が追加されている」と捉えていただければ、相違点もすっきりと整理できるかと思います。

ただし、目視で異物が確認できていないのに、「そろそろ出てきているだろう」と推測して、むやみに指を突っ込んで異物をつまみ出そうとすることは避けてください。せっかく異物があと少し位置まで押し上げられても、指を突っ込むことでさらに奥に押し込んでしまいます。

まとめ

今回は、窒息時の対応の全体像、圧迫によって異物が除去されるメカニズムを説明した上で、意識を失った場合に胸骨圧迫を開始する理由を解説してきました。加えて、意識がある場合の対応ができれば、より万全だといえます。窒息時の対応だけを学ぶのも有効ですが、心肺停止の対応と同時に学ぶことで、理解と実践の幅が広がると考えます。
しかしながら、院内で企画されるBLS研修のほとんどは、基本的に心肺停止に陥った成人患者の対応がメインです。時間的制約や指導者がいないといった事情で窒息時の対応は省略されることが多いのが現状です。確かに、吸引器を使用することができるので、ハイムリッヒ法などの手技は求められないかもしれません。しかし、院内こそ、誤嚥・窒息を起こしやすい高齢者や全身状態が思わしくない患者がたくさん入院されていますよね。
一方、アメリカ心臓協会のBLSコースには窒息時の対応が含まれており、多くの方がCPRと窒息を同時に学ばれています。ぜひ、窒息時の対応も救命処置のひとつと捉えていただき、救命講習を受けていただければと思います。

⇒窒息時の対応を学ぶことができる福岡博多トレーニングセンターのBLSコース・ハートコードBLSコースはこちら

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