心臓震盪とは | 心臓震盪の原因とその突然死を防ぐには

1.心臓震盪(しんとう)とは?

皆さんは、心臓震盪という用語を聞いたことがあるでしょうか。胸部に強い衝撃を受けることで致死性不整脈が出現し、心肺停止に至ることを指します。1995年には、心疾患のない若年者が胸部に強い衝撃を受けて死亡したケースをもとに、海外の文献で心臓震盪が紹介されています1)。

心臓震盪が起きた場合は、心肺蘇生法を実施する必要があります。心肺蘇生法のおおまかな流れや、胸骨圧迫の方法は下記のPageをご覧ください。

【関連記事】BLS(一次救命処置)とは | BLSの手順とAHA(アメリカ心臓協会)公認のBLSコースについて解説

【関連記事】胸骨圧迫の方法 | 胸骨圧迫の際の手の位置・深さ・速さ(リズム)などポイントを解説

では、心電図をもとに、なぜ心臓震盪が起こるのかを考えていきます。心臓の収縮=QRS波です。この時期は「絶対的不応期」と呼ばれ、他の刺激を一切受け付けません。収縮が完了し、拡張に移行する過程でT波に差し掛かると、一切刺激を受け付けない状態から強い刺激には反応する「相対的不応期」がやってきます。この時期を受攻期と呼び、受攻期に刺激が重なることで、心室細動などの致死的不整脈を生じる恐れがあります。T波に心室性期外収縮が重なり、致死性不整脈に移行することを「R on T」と呼び、耳にしたことがある方も多いかと思います。また、心肺停止に至らない場合でも、T波以外に強い衝撃を受けたときに房室ブロックが出現することもあります。皆さんの身近でも、いつでも誰にでも心臓震盪は起こりうるのです。

2.心臓震盪が起こる原因

国内でも、心臓震盪の原因として、競技・レクリエーション問わずスポーツに関するものが数多く報告されています2)。文献をもとに心臓震盪が起こる原因をまとめたものを図1に示します。

胸部への衝撃の原因
【図1】胸部への衝撃の原因(文献2をもとに作成)

心臓震盪が起こる原因として、最も報告数が多いのは野球・ソフトボールに関連するものです。内訳としては、硬式ボール8件、軟式ボール5件、ソフトボール3件、金属バット1件であり、硬式ボールが最多です。硬くて小さなものが胸部に直撃することで心臓震盪を招きやすいといえます。ただし、パンチ(拳)やタックル(肩)といった身体接触でも心臓震盪は起こります。したがって、この文献の報告に含まれないスポーツであっても、胸部への衝撃が想定されるスポーツであれば、いつ心臓震盪が起こっても不思議ではありません。また、競技中だけでなく、和気あいあいとしたレクリエーションや日常生活の遊びの中でも起こる可能性はあります。
加えて、その他の背部打撲による心臓震盪が3件報告されています。具体的には柔道で投げられたときに背部に強い衝撃を受けたときが考えられます。心臓震盪を招くのは胸部への衝撃だけではありません。背中からの衝撃が心臓に届くことで、胸部への衝撃と同様に心臓震盪が起こってしまうのです。

3. 心臓震盪が起こった時にどう動くべきか?

ここで、実際にフットサルのボールが胸に当たり、心臓震盪が起こった事例を紹介します。この動画は、心臓震盪になった当事者の方が「自分自身の胸にボールが当たって心臓震盪で倒れた映像」を見ながら、当時の様子についてインタビューを受けているものです。

【実録映像】心臓が止まった瞬間…消防レスキューが驚いたフットサル場での行動!! – YouTube

※胸にボールが当たって倒れる様子を含みます。

当事者の方は、適切な胸骨圧迫とAEDによる処置を受け、後遺症なく社会復帰されています。お話の中で、現場にいたスポーツトレーナーが迅速な救命処置を行った上で、病院に引き継いでくれたことが社会復帰できたカギであったと話されています。“救命処置”は胸骨圧迫とAEDが一括りにされがちですが、私は迅速なAEDの使用がもっと注目されるべきだと考えます。なぜなら、胸骨圧迫だけでは心室細動による救命率の低下は食い止められないからです。
令和3年に総務省消防庁が発表している救急救助の現況によると、救急隊が到着するまでの時間は平均8.9分でした4)。胸骨圧迫を実施しても1分経過するごとに3~4%ずつ救命率は下がるといわれています。AEDがない場合、救急隊がどんなに迅速に駆けつけてくれても、約9分後であれば救命率が27~36%低下した状態で引き継ぐことになります。どんなに最善を尽くしても、胸骨圧迫だけでは、理論上1/3は救命できない(=社会復帰が難しい)転帰となることが予想されるのです。
なお、AEDでの除細動が成功すれば、そこで救命率の低下は止まります。手元にAEDがあり、1分で除細動が成功すれば、理論上3%しか救命率は低下しないことになります。質の高い胸骨圧迫とAEDによる除細動を組み合わせることで、ここまで救命率は変わってくるのです。

心肺停止と救命率については下記のページで解説しておりますので、参考にしてください。

【関連記事】心肺蘇生・AED(1):心肺停止と救命率

4. 心臓震盪の発症年齢

文献をもとに、心臓震盪を発症した年齢をまとめたものを図2に示します。心臓震盪となった多くの人が10代以下であることがわかります。

心臓震盪の発症年齢
【図2】心臓震盪の発症年齢(文献2をもとに作成)

胸部への衝撃の原因(図1)は、主にスポーツであったことを考えれば、元気に部活動に打ち込んでいる子どもたちの世代に多く発症していることも腑に落ちます。
現在、自治体によっては校内での部活動が廃止され、代わりにクラブチーム等の地域での活動に移行しています。学校のように教職員が常駐し、AEDが常設されている環境から、様々な場に飛び出していくことになります。保護者の立場で考えると、子どもの活動の場を選ぶ際に、万が一の場合に“十分な救命処置が行える環境か”という安全面をチェックすることも、子どもを守ることにつながると考えます。指導者も競技中のケガはもちろん、心臓震盪の理解を深め、スポーツの過程で選手がどのような衝撃を受ける可能性があるか想定し、すぐにAEDを使用できる環境を整えることは非常に重要であるといえます。

5. 心臓震盪による突然死を防ぐには

心臓震盪の多くはスポーツに関連していました。新型コロナウィルス感染症が流行した2020年にはあらゆるスポーツ大会の中止が余儀なくされましたが、近年は少しずつ開催数も増えてきました。部活動・クラブチームの試合や地域のスポーツ大会も身近に開催されるようになってきたのではないでしょうか。
皆さんの中には、スポーツ大会を運営するために準備を進める方や、チームの保護者会で必要な物品を検討する方もいらっしゃると思います。打撲や捻挫、熱中症の対策はすぐに思いつくと思いますが、ぜひAEDの備えが必須であることを伝えてください。心臓震盪はまだ広く知られているとはいえません。マラソン大会で用意してあるAEDのイメージが強いのか、「若者しか参加しないから要らない」「うちの団体には心臓が悪い人はいないから要らない」という意見もあるかと思います。確かに、スポーツに関連した若年者の心臓突然死には、もともと持っている心臓病が原因となる場合もあるでしょう。しかし、心臓震盪は元気な子どもにも大人にも、誰にでも起こりうるものです。AEDを備えて生命を守るためにも、このページを読んでいただくようご紹介いただければ幸いです。
AEDの普及が進んでいるせいか、AEDがあると思って当日会場入りをした後に、設置がないことに気づいたという話も耳にします。まだまだすべての会場にAEDが常設されているとは限りません。設置されていても、競技場から遠く離れていれば取りに行くだけでも時間と人手を要し、即時対応ができません。心肺停止は一刻を争う事態です。時間経過とともに、救命率はどんどん下がります。確認すべきは、AEDが敷地内にあるかどうかだけでなく、すぐに使えるかです。大会のためにAEDを購入するというのはハードルが高いと思いますので、当日だけAEDをレンタルしてすぐに使える位置に準備しておくことで、心臓震盪に即時対応ができるようになります。

まとめ

今回は、心臓震盪の仕組みと原因について、詳しく説明してきました。スポーツでは、身体接触等で物理的に人が倒れる場面は多々ありますし、特に武道では絞め技があるくらいですから、「少し気を失うのはよくあること」と、軽症と決めつけてしまうかもしれません。組織のひとりだけが心臓震盪を理解していても、効果的な救命処置は難しいです。この記事を読んだ方は、ぜひ周りにも心臓震盪について周知していただければ幸いです。

【参考文献】
1) Maron BJ et al,blunt impact to the chest leading to sudden death from cardiac arrest during sports activities,The New England Journal of Medicine,Vol.333,No.6,1995,337-342
2) 輿水健治 他,心臓震盪update-国内例の状況と予後,今後の対策―,臨床スポーツ医学,Vol.35,No.6,2018,574-577
3) リンク先動画 【消防防災】RESCUE HOUSE レスキューハウス
https://www.youtube.com/@rescuehouse2020 (YouTubeチャンネルページ)
4) 総務省消防局,令和3年版 救急救助の現況 Ⅰ 救急編,p.38
https://www.fdma.go.jp/publication/rescue/post-3.html
AHAコース受講なら – 福岡博多トレーニングセンター

福岡(博多)・北九州・久留米・熊本・長崎などで、AHA公認のBLS・ACLS・ACLS-EP・PEARS・PALS・ハートセーバーAEDコースを開催。
博多駅筑紫口から徒歩4分・AHA公認・平日も多数コース開催・広々とした明るい会場です。

胸部への衝撃の原因
最新情報をチェックしよう!
>AHAコース受講なら - 福岡博多トレーニングセンター

AHAコース受講なら - 福岡博多トレーニングセンター

福岡(博多)・北九州・久留米・熊本・長崎などで、AHA公認のBLS・ACLS・ACLS-EP・PEARS・PALS・ハートセーバーAEDコースを開催。
博多駅筑紫口から徒歩4分・AHA公認・平日も多数コース開催・広々とした明るい会場です。

CTR IMG