ER日記(8):1歳の子供、箸の先が鼻腔に刺さった?

08、1歳の子供、箸の先が鼻腔に刺さった?

1歳の子供、箸の先が鼻腔に刺さった、とのことで救急搬入
それはないだろうという大方の予想ではあるが、実際の結果は・・・

1歳の子供、箸の先が鼻腔に刺さった、とのことで救急搬入

夜の8時ごろホットラインが鳴った。1歳の子供が、箸を持って遊んでいて前に転び鼻を打撲した。持っていた箸の先がなくなったので、箸の先が鼻の奥に刺さったかもしれない、というものである。

口腔内や鼻腔内に箸などの棒類が刺さった可能性がある乳幼児の患者には、以前に起きた「割り箸事件」が社会問題化して以来、ERドクターも非常に気を使うようになった。つまり、脳への異物浸入がないかの懸念である。また、患者の親も非常に神経質になり、可能性が否定できなければ病院を訪れることが多くなった。

しかし、ほとんどは口腔内や鼻腔内には何も見当たらず、勿論、脳への異物浸入などはない。ERドクターはホットラインの話を聞いて、まず鼻腔内には異物(箸の先)はないと思った。

しばらくして患者が救急車で運ばれてきた。両親もついてきている。患者(1歳の子供)の鼻には外傷の痕があり鼻出血の痕もあったが、元気でERドクターが近づいて触ろうとすると泣き叫んで診察さえもさせてもらえない状態であった。しかし、母親が抱いていると普通におとなしい状態である。付き添いの両親は、あの割り箸事件のことを口にし、万が一脳に箸が刺さっていたら心配だからと話している。

ERでの診察が始まった

ERドクターは、神経学的に異常はないと判断して、とりあえず脳への異物浸入がないかどうかを頭部・顔面の単純レントゲンとCTを撮って調べることにした。検査結果は、顔面骨、頭蓋骨、脳のいずれにも問題はなく、また異物も見当たらなかった。箸などの異物は単純レントゲンやCTでは写らない場合もあるため、これだけでは100%否定できないが、異物はないものとERドクターは判断した。

このこと(異物が生体内にないこと)は、ERドクターが当初予想したとおりの結果であった。この結果を両親に報告した後、最終確認のため口腔内と鼻腔内を直視下に調べることにした。

頭部・顔面CTではERドクターの予想どおり異常はなかったが・・・

1人の看護師が抱っこして、もう1人の看護師が顔を抑えて、泣きわめく子供の口腔内を調べた。口腔内は全く問題なかった。次は鼻腔内である。鼻鏡を入れるだけで暴れようとするが抑えて右鼻腔内を見た。すると奥に何か白いものがあるのがわかった。念のため左鼻腔内も見た。そこには先程右側で見られた白いものは見られない。

ERドクターはその光景を疑ったが、右鼻腔に異物が存在することを確信した。自分が予想していた結果とは全く違ったことにびっくりしたが、次の瞬間はその異物を除去することを考えた。そして、セッシで異物をつかみ除去した。

ERドクターは、その瞬間何の抵抗もないことを実感しながら、何の抵抗もないことに安堵した。もし万が一、異物が顔面骨や頭蓋骨や脳に刺さっていた場合は、除去するときに何らかの抵抗があるはずである。刺さっていたものを除去することで今まで止まっていた血(止血されていたもの)が再度出血して取り返しがつかないことになることもある。

一応は単純レントゲンとCTで問題ないから、骨や脳には刺さっていないはずだとは思いながらも最後まで気を抜けない一瞬であった。異物除去後、少しの鼻出血があったがそれは直ぐに止まった。そして、除去された異物は両親が言っていた箸の先であった。

頭部・顔面CTの再構成で箸の先を画像上でも確認

異物除去後、異物除去前の頭部・顔面CTを再構成することで異物の確認ができる場合があるため、ERドクターはレントゲン技師にCTの再構成を頼んだ。つまり、通常のCTは水平断(水平断面)のみの画像であるが、別の断面(矢状断や前額断)や3D・CTという詳細な画像作成を頼んだのである。ちなみに、矢状断とは縦断面、前額断とは横断面である。

その結果、追加した再構成の詳細画像で右の鼻腔内に異物(箸の先)があることがわかった。右鼻腔内に異物があることがわかっているため、その目で見ると、再構成した詳しいCTにちゃんと箸の先が写っているのが確認できたわけである。

再構成された詳しい画像を見ると箸の先は頭蓋骨の鼻腔側の骨の手前で止まっていて、骨にも刺さっていないし、勿論脳にも刺さっていないことが確認できた。異物があるかどうかわからない場合はここまでの詳しいCTの画像を作ることはないが、直視下に異物が確認できたためここまでの詳しい画像をつくることになった。医学的には、異物はあったが頭蓋骨や脳には問題ないことがほぼ確定した。

ERドクターは両親に除去した箸の先を見せた。両親も驚いていたが、やっぱり連れてきてよかったと安堵していた。その光景はERドクターも少し心休まる一瞬であった。患者は念のため脳神経外科に入院することとなり、両親もそれを希望した。

割り箸事件の教訓

割り箸事件が起こった後、口腔内や鼻腔内の異物(箸など)疑いは、患者側も医療サイドも神経質になっている。ほとんどは何もないため、話を聞いてそれらしくないと判断すると否定的な先入観ができてしまっている。実際、異物が確認できた今回のようなことは非常に珍しいことである。

ERドクターは話の経過からして異物はないものと判断したが、やはりある確率で異物混入があることを再認識し、異物があることを前提に診療を進めなければならないことも再認識した。その中の一部が割り箸事件のように脳に異物が刺さるような大惨事となるのである。

もう一つ、子供の親への啓蒙も必要である。子供には絶対に棒類を持って遊ばせない、予防が最も重要であることを両親に教えるべきである。子供の不慮の事故のほとんどは予防できるということ、起こってしまってからでは遅いということである。世のお父さん、お母さんは、ぜひこのことを肝に銘じてほしい。

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